不動産鑑定士論文式試験 独学合格の可否と合格に必要な考え方

前置き

 不動産系資格の中で最難関と言われる不動産鑑定士試験。その合格にあたって、予備校の利用はもはや必須と捉えられている節があります。

 本当にそうでしょうか。私が不動産鑑定士論文式試験の受験を終えて感じたのは、予備校の利用は必須ではないということです。ここではその理由、および独学での合格を目指すために必要な戦略について解説します。

独学合格の可否

 結論から言うと、不動産鑑定士論文式試験は、独学での合格が充分可能であると考えます。
 まず前提として、仮に予備校の不動産鑑定士講座を受講した経験がなく、新しく論文式試験合格を目指す場合、用いる教材は大きく

  ①インプット講義教材

  ②参照用・暗記用教材

  ③問題集

に分類されます。
 ①に相当するものとして、基本テキスト(全科目),要説などの基準解説書(鑑定理論)等が、②に相当するものとして基準の暗記帳,民法条文集等が、③に相当するものとして答練等があります。基本的には各科目について①〜③を入手してインプット・アウトプットのサイクルを繰り返していくことになります。基本的に演習・経済学には②はありません。

 本題に戻ります。上記の①〜③に相当する教材は全て、(後述の問題点はありますが)市販の教材でカバーすることが可能です。結局のところ論文式試験で試されるのは「必要十分な知識を備えているか、その知識を論理的に説明できるか」という点に尽きます。正直な話、大手予備校を何年受講してもこれが合格に必要な水準に達しない受験生は山ほどいます。逆に、独学合格者や答練をあまり書かずに合格していく受験生はこの点を要領よく抑えていると言えるでしょう。

 結論として、不動産鑑定士論文式試験は独学での合格が十分に可能なのです。

独学受験生に不利な点

 ではなぜ、不動産鑑定士試験の独学合格者が少ないのでしょうか。予備校生と比較して独学受験生に不利な点は何なのでしょうか。

私は、

  1.論文式試験という試験制度の特殊性

  2.相対試験という構造

  3.予備校固有のノウハウ・質問窓口の充実度

が挙げられるものと考えます。

 

  1.について

 ご存知の通り、不動産鑑定士論文式試験は論文形式で回答作成する必要があります。そのため単なるインプットに加え、記述の技能を磨く必要があります。予備校の不動産鑑定士試験の講座ではいわゆる答練、すなわち答案を作成・送付し、講師の添削を受けることが必要になります。残念ながらこのような添削を受ける事は(親族に鑑定士等がいない限り)独学受験生にはほぼ不可能といえます。

  2.について

 不動産鑑定試験は相対評価の試験と言われます。すなわち一定の得点を取れば合格が約束されるのではなく、受験者数の上位何%かを合格させるよう調整される試験ということです。相対評価の試験では、受験者内での相対的な自身の立ち位置を知ることが重要となります。この点、大手予備校の答練では各回ごとの順位が発表されるため容易に自身の立ち位置を知ることが可能ですが、独学ではそれが困難である事は否めません。

  3.ノウハウ・質問窓口について

 各予備校には名物講師と言われる講師がおり、一部ではカリスマ的な人気を誇る講師の方もいらっしゃるようです。学習方法あるいは論文の記述方法に関する指導について、彼らには熟成されたノウハウがある事は確かです。予備校を選択するにあたって、講師の評判を選択の軸とする受験生が多いことも事実です。また大手予備校はインターネット等での質問窓口を備えており、疑問点をすぐに解消できる長所があります。この点でも独学受験生が相対的に不利であることは事実です。

独学合格のための戦術

 以上のように、予備校生は独学受験生にないアドバンテージを持っています。数十万円も課金しているのだから当然とも言えますが。

 最後に、そのようなビハインドを補って独学での合格を目指すために、独学受験生が留意すべき点を検討します。

  1.論文式試験の特殊性について

 私がお勧めするのは答案構成を主とした問題演習に励むことです。前述の通り不動産鑑定士論文試験においては論述スキルを磨くということが重要になります。ただし私は、回答用紙に記述を行う事(いわゆる書きまくる戦術)は費用対効果の点で非効率的であると考えます。基本的に答案構成で「論点を拾う」トレーニングができていれば、回答用紙を何枚も書く必要はありません。独学の方は添削を受けられない分、答案構成の精度とスピードで勝負してください。答案構成さえしっかりできていれば、あとは基準・論証の暗記制度の問題でしかありません。

  2.相対試験について

 こちらについては独学の受験生は各予備校が行う模試を有効活用していただきたいと思います。昨今はSNS等が発達していますので、それらを活用して他の受験生の仕上がりを観察するのも良いでしょう。

 この点、独学受験生は心理的プレッシャーを感じる部分かもしれません。ただし私が受験を通して感じたのは、しっかりと論点を拾える答案さえ書ければ、独学であっても他の予備校生相手に対等に戦えるレベルにあるということです。答案構成で論点を外さず、基準・論証の暗記が確実にできているのであれば、予備校生の間でも十分上位クラスです。自信を持ちましょう。

  3.ノウハウ・質問について

 確かにカリスマ講師の講義は解りやすく面白いですが、それは合格にあたって必須の要素ではありません。繰り返しますが、根幹となる部分を理解・暗記・論述できれば本試験で得点を取ることは可能ですので、独学受験生が引け目を感じる必要は全くありません。また学習方法や質問については、SNS等で相談に乗ってくれる合格者がいるので活用するとよいでしょう。

まとめ

独学受験生には予備校生と比較して不利な点があるものの、不動産鑑定士論文式試験は独学での合格が充分可能です。独学合格者が増えることを切に願います。