不動産鑑定士論文式試験 模試活用のすすめ 

前置き

 不動産鑑定士論文式試験の受験に際し、私は模試を活用することをお勧めします。模試について、一部ではそれほど意味がないという意見も見受けられます。私は模試にはいくつかの特徴があり、利用にはいくつかの注意を払う必要があると考えています。

 

模試の良い点

1.母集団における立ち位置を把握できる。(科目による)

 不動産鑑定士試験は相対評価の試験です。したがって受験者の中で上位(論文式で15%程度)に入ることが合格の条件となります。特に最も受験者数の多いTACの模試は受験生の大半が受験することとなるため、集団における立ち位置を知る上で説得力の高い指標となります。ただし得点や順位が持つ説得力については科目間で差異があり、教養科目では説得力が比較的低く、鑑定理論では高くなるものと考えます。この点は後述します。

2.他の受験者が得点するであろう問題を把握できる。

 1.で述べた相対評価という特性から、不動産鑑定士論文式試験においては、他の受験生が得点する問題を取りこぼすことなく着実に得点する必要があります。模試で出題された問題については他の受験生もほぼ完璧に対策をしてくるため、模試によってある種の「ヤマ」が形成されることとなります。模試で出た問題が本試験で出題された場合には着実に得点できるよう、よく復習しておく必要がある事は言うまでもありません。

3.論述及び時間配分のトレーニングを行う機会になる。

 特に独学受験生にとって、模試は論文答案の採点を受けられる唯一の機会となります。それまでに習得した知識及び答案構成能力の仕上がりを確認する上で、模試は貴重な情報源となります。

 また模試は本試験における時間の使い方をシミュレーションする場でもあります。本試験と同じ制限時間で、できれば時間帯も本試験に合わせて受験することが望ましいです。


模試の悪い点

1.採点基準に予備校間でのブレが大きい。

 特に教養科目において、TACとLECでは論証例に大きな違いがあり、例えばTACの論証をLECの模試で書いた場合、ほとんど得点が付かなかった事例があるようです。したがって特に教養科目において、立ち位置を図る指標として模試は説得力に欠ける面があります。

 なお、TACとLECどちらの論証を用いても、本試験ではきっちり加点されることに変わりはありません。別の予備校の論証を用いたために模試での得点が低く出たとしても気にしすぎないようにしましょう。

2.過去問の使い回しが見受けられる。

 特にTACの教養科目において、前年の模試と類似した問題が出題されることがあります。そのような出題がなされた場合、過年度受験生に有利な状況が生まれます。過去問題の使い回しがあった場合、当該科目の順位はあまり説得力を持たないと捉えて良いでしょう。

 ただし相対評価という試験の特性を踏まえると、たとえ過去問の使い回しであっても本試験ではしっかりと得点できるようにしておく必要があります。

 

模試順位の説得力と本試験順位との関係

 上述のような模試の特性上、模試で上位に入った受験生が必ずしも本試験で上位に入るとは限りません。予備校の模試でそれほど順位が高くなかった受験生でも、本試験では高順位で合格するという状況も十分に考えられます。

 私は合格年のTAC模試において第一回で150位台、第二回で140位台という成績でしたが、本試験では10位台の成績で合格しています。このような差異が出たことについては

①模試を受験するまでの間、論述トレーニングについてはほぼ独学であったため、インプット済みの知識が答案に十分に反映されていなかったこと

②予備校の「ヤマ」をそれほどあてにせず網羅的な学習をしており、その戦略が本試験では功を奏したこと

が主な原因であると考えています。

 一方で予備校受講生の方は、模試では合格圏内に入っていなくとも本試験で巻き返してくる独学あるいは半独学の受験生がいる可能性がある点に留意しておく必要があるでしょう。模試で上位に入っても本試験で合格層から弾き出されてしまうことは大いにありうるのです。

 このような模試の特性を踏まえ、受験生は得点や順位に一喜一憂することなく、戦略的に模試を活用する必要があります。

 

模試の活用方法

1.論述の研究に使う。

 特に独学受験生にとっては、模試の結果を踏まえて本試験までの間にアウトプットの技能を磨くことが非常に重要な作業となります。制限時間と記述分量を踏まえ、どの程度綺麗な字で記述するか、どのような論述の様式(小問番号の振り方・インデント・字の大きさ)で記載するかを検討・確定しましょう。

2.(特に鑑定理論において)学習進捗度の把握に活用する。

 上述の通り、教養科目に関しては予備校間で指導方針の違いが大きく、模試の結果が必ずしも相対的な立ち位置の把握に役立つとは限りません。しかし鑑定理論については不動産鑑定評価基準という共通の指針があり、予備校間での指導方針の違いはそれほど大きくありません。

 したがって鑑定理論の得点及び順位は、受験生内での自身の相対的な立ち位置の把握にあたって有用な情報となります。インプット・アウトプットの進捗管理に活用し、直前期に取り組むべき課題を明らかにしましょう。

 

まとめ

 不動産鑑定士試験論文式試験の模試は本試験の直前期に開催されますが、本試験までにできることはまだあります。受験生の方は模試を有効に活用し、最後の追い込みに注力してください。